「身近な生化学」 放送大学面接授業。(20260418-20260419)

【シラバス抜粋】
生命の営みは、身体の中で生体を構成する分子が働いて生じる一連の化学反応。その化学反応を明らかにしていく学問が生化学です。生体を構成する物質やそれらの物質が起こす化学などを学びます。

【目標】身近なことについて、科学的に理解できるようになること。

【参考書】
・ストライヤー基礎生化学(J. L. Tymoczko , J. M. Berg , Jr. G.J. Gatto, L. Stryer/東京化学同人/¥7,700/ISBN=9784807920105)
・酒と酵母のはなし(大内弘造/技法堂出版/¥1,900/ISBN=4765544117)
・生化学 鈴木鉱一著(東京化学同人)

先生について・・・分子生物学、酵母などを研究している、スイスト株式会社、発酵シロップ。酵母ハンター(野生酵母を採取する)→酵母活用商品の開発につながる。「家康」由来の土地から採取した酵母でビールをつくる。→家康公クラフト。たくさんの酵母が集まったので「発酵シロップ」

生化学→生命の化学→生命現象を生体を構成する分子の動きとして理解する学問である。生化学は酵母から始まっている。

酵母こそ、生化学歴史をつくった生物。酵母が微生物であると認識されたのは17世紀。顕微鏡が開発されて細胞が動いているのが発見された。19世紀・パスツール→発酵とは生物体の代謝と発見。ブッフナー→すり潰した発酵液でも発酵が起きると発見。「酵母の無細胞抽出液でアルコール発酵が起きる」生命活動は化学反応である。この発見が生化学が始まるきっかけ。
酵素→enzyme(エンザイム)

 

第1回細胞の構造と生命を構成する分子

生物体の元素は、水素63%、酸素25.5%、炭素9.5%、窒素1.4%。HOCNだけで99.4%を占めている。
その他、カルシウム、リン、塩素、カリウムなど微量のものも大切。
「炭素」→生化学で扱うほとんどの分子は「有機化合物」であり、炭素は単結合、二重結合、3重結合など、便利な元素である。

生体分子は、主に4種類。タンパク質/核酸/脂質/糖質。主な役割は下記

・タンパク質(多用途)・・・・アミノ酸
・核酸(遺伝情報、DNA、RNA)・・・・ヌクレオチド
・脂質(膜、エネルギー貯蔵体、情報分子)・・・・リン脂質
・糖質(燃料、生体構成成分、情報分子)・・・・単糖、グリコース

生物の構造・分子のヒエラルキー

生物の構造・分子のヒエラルキー

ヒト→臓器→組織→細胞→細胞内小器官(核・ミトコンドリア・葉緑体、DNA)→タンパク質/核酸/脂質/糖質→→→元素

セントラルドグマ(Central dogma)とは複製。細胞が分裂していくしくみ。
DNAの情報がRNAに転写されたうえ翻訳されて、タンパク質がつくられる。このことをセントラルドグマという。
レトロウイルスは転写を逆向きにする「逆転写酵素」をもっている。(有名なのは、HIVウイルス)宿主の細胞を利用してレトロウイルスを増殖させる働きがある。レトロウイルスの逆転写酵素は人にはないものなので、生薬のターゲットになる。

生物は、原核生物と真核生物に分けられる。
・原核細胞・・・核膜、細胞内小器官がない。(細菌・古細菌)Prokaryote、39億年前に誕生
・真核生物・・・核膜、細胞内小器官がある。Eukaryote、21億年前に誕生
27~23億年前に「酸素革命(地球上の酸素濃度が濃くなった)」を機に酸素を利用できるバクテリアが他の細胞に入り込み(細胞内共生説→ミトコンドリアになったと考えられている)真核生物が誕生した。多細胞の真核生物は5億7500万年前に誕生した。

発酵に使われる微生物は、主にカビ(麹菌・青カビ→多細胞真核生物)、酵母=イースト(単細胞真核生物)、細菌(乳酸菌、枯草菌・・・原核生物)

真核生物にある細胞内小器官を分解すると、核/ミトコンドリア/葉緑体/小胞体/ゴルジ体。

細胞内のいろいろな場所で生化学の反応が起きる

細胞内のいろいろな場所で生化学の反応が起きる

最新研究では、細胞内小器官は相互作用しあっている(オルガネラ相互作用)

“水”分子は折れ曲がっている。OとHが結合しているが、その結合角が105度ある特性(極性構造)で、OとHの電気陰性度の差が大きくなりOがHよりも電子を強く引き寄せるため、部分的に電荷を帯びる(極性)。
水素結合(原子のなかの電子の偏りによりおきる結合)した水は、水分子の極性により互いに引き合うようになり、高沸点であり、大きな蒸発熱、比熱大で急激な温度変化が生じない。
優れた溶媒となる特性がある。これらにより、生物にとって欠かせない物質。

原子の周辺のちょっとした電荷の偏りで起きる分子間や原子間の結合力をファンデルワールス相互作用・・・・ヤモリの足はファンデルワールス結合である。

・ヤモリの足はファンデルワールス結合

・ヤモリの足はファンデルワールス結合

疎水分子は凝集する

疎水性効果:水に溶けにくい分子(疎水性分子)が水中で互いに集まり、水との接触面積を最小にしようとする現象。水分子が構造化(アイスバーグ構造)してエネルギー的に不安定になるのを避けるため、疎水基同士が凝集し、生体内のタンパク質構造維持や脂質膜形成の根幹を成す。
生体での重要性: 私たちの体の中でも不可欠な役割を果たす。
タンパク質の折りたたみ: タンパク質が正しい立体構造へと折りたたまれる(フォールディング)過程で、疎水性効果は最大の原動力として働く
細胞膜の形成: リン脂質が集まり、脂質二重層(細胞膜の基本構造)を作る原動力となります。
両親媒性分子(りょうしんばいせいぶんし)により水の存在下で膜を形成できる・ミセル(Micelle)は、界面活性剤などの両親媒性分子が水中で親水基を外側、疎水基(親油基)を内側にして集合した球状の微粒子(約10~100分子)。汚れを包み込む「乳化・可溶化」作用で洗剤の洗浄力(石鹸水など)の主役となる。

タンパク質のフォールディング

第1回のまとめ。
・生体系に必要な原子や分子は限られている
・生体分子は、主に4種類に分けられる
・セントラルドグマは、生物の遺伝情報の基本原理を表している
・膜は、細胞の輪郭をつくり、細胞のさまざまな機能を実行する
・生化学的相互作用は、水溶液中で起こる
・弱い相互作用は重要な生化学的性質である
・疎水分子は凝集する

第2回アミノ酸の性質

アミノ酸とは

・タンパク質を組み立てている分子
・アミノ基とカルボキシ基をもつ分子
・タンパク質のアミノ酸は20種類である

アミノ酸の一般構造

・α炭素
・カルボキシ基
・アミノ基
・側鎖(タンパク質を構成するアミノ酸では、中央の炭素に結合したR基が側鎖と呼ばれ、20種類のアミノ酸それぞれに固有の構造がある)

 

鏡像異性体・・・鏡像異性体(エナンチオマー)とは、互いに鏡に映したような関係(鏡像)にありながら、立体的にどう回転させても重ね合わせることができない、一対の分子構造のこと。L異性体とD異性体。

グリシン以外のアミノ酸は、鏡像異性体が存在し、L方のみがタンパク質の構成成分である。

2. …L方のみがタンパク質の構成成分である
自然界にはL体とD体のアミノ酸が存在しますが、地球上の生物が体内でタンパク質を作る際に使うアミノ酸は、L体のみ。D体は、特定の細菌の細胞壁や、一部の生理活性物質(脳内の神経伝達物質など)には見られますが、筋肉や酵素などのタンパク質を構成するアミノ酸としては使われない。

3. なぜL型だけなのか?
この現象は「生命のホモキラリティー」と呼ばれる。
タンパク質は、アミノ酸が複雑に折れ曲がって機能的な立体構造を作る。L型とD型が混ざってしまうと、正しく折れ曲がることができず、生体内で機能するタンパク質を安定して作ることができなくなるため、進化の過程でL型のみが選ばれたと考えられている。

アミノ酸の種類は、20種のなかで、非必須アミノ酸と、必須アミノ酸に分かれている。

側鎖の性質は、タンパク質の構造と機能を決める重要な決定因子である。

疎水性が強いと、タンパク質の内部、親水性が強いとタンパク質の外側に折り畳まれる

第2回のまとめ
・タンパク質は、全部で20種類のアミノ酸から構成される
・アミノ酸は多様な官能基を持つ
・必須アミノ酸は食事から摂取しなければならない。

第3回 タンパク質の構造と働き

【機能に着目した分類】
酵素・enzymes
構造タンパク質
防御タンパク質
運動タンパク質
貯蔵タンパク質
シグナルタンパク質
輸送タンパク質
受容タンパク質 など
【局在からの分類】
分泌タンパク質
細胞膜タンパク質
細胞質タンパク質
核内タンパク質 など
【形状からの分類】球状、繊維状

【多様な役割】消化酵素アミラーゼ、ケラチン、コラーゲン、アクチン、抗体、ミオシン(筋肉の収縮)、カゼイン(ぼにゅう)、ホボアレブミン(卵白)、インスリン、ヘモグロビン(o2の運搬)インスリン受容体。タンパク質が多様な役割を果たせるのは、いろいろな形をとれるから。

 

アンジオテンシン(Angiotensin)は、体内で血圧や体液量、電解質のバランスを調節する重要なホルモン(ペプチド)です。特にアンジオテンシンIIは、強力な血管収縮作用を持ち、血圧を上昇させる働きをする。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、主に血圧の調節に関わる重要な酵素。

プラジキニン(Bradykinin)は、組織の損傷や炎症時に産生される9個のアミノ酸からなるペプチドで、強力な血管拡張、血管透過性亢進(浮腫)、および発痛作用(痛み)を持つ物質

ACE阻害作用が期待される主な食品・成分
食品が消化される過程で「ACE阻害ペプチド」が生成され、血圧上昇を抑える働きを助ける。

乳製品:発酵乳(ヨーグルト・チーズなど): 特定の乳酸菌で発酵した乳に含まれる「ラクトトリペプチド」には ACE 阻害作用があることが知られている。
カゼイン由来ペプチド: 牛乳のタンパク質が分解される際に生成される。
大豆・発酵食品:納豆・味噌・しょうゆ: 大豆タンパク質が発酵によって分解される際に、ACE 阻害作用を持つペプチドが豊富に作られる。
魚介類:いわし(サーデンペプチド): いわしのタンパク質から作られるペプチドは、特定保健用食品(トクホ)の関与成分としても利用。
海藻(のり): 「MAA」という天然成分に ACE 阻害作用があることが確認。
植物由来:アブラナ科野菜(高菜・かつお菜など): 乳酸発酵させることで高い ACE 阻害能を示すことが報告。
オリーブ: オリーブに含まれる特定の成分(オレアノール酸など)にも阻害効果があることが示唆。
その他: 燕龍茶ポリフェノールや GABA(ギャバ)なども、ACE 阻害や血圧抑制に関わる成分として挙げられる。

 

タンパク質の構造を決める4つの階層

一次構造はアミノ酸配列・・・極性アミノ酸側鎖はタンパク質の外面、非極性アミノ酸側鎖は内側に折り畳まれやすい。

二次構造は主鎖による局所的な構造パターン・・・アミノ酸の主鎖が部分的に形成する規則的な立体構造で、主に水素結合によって安定化される。代表的な構造はらせん状のα-ヘリックスと、シート状のβ-シート(βストランド)の2種類。これらの構造は、タンパク質が三次構造へ折り畳まれる前の中間段階として自発的に形成。

三次構造はαヘリックスやβシートなどの二次構造が、アミノ酸側鎖間の相互作用によりさらに折りたたまれた、1本のポリペプチド鎖全体がとる独自の三次元的立体構造。これは球状タンパク質の機能的な完成形であり、疎水性相互作用やジスルフィド結合などで安定化

四次構造は複数の独立したポリペプチド鎖(サブユニット)が結合して機能的な複合体を形成する構造。三次構造(単一の鎖の立体構造)が複数集まったもので、ヘモグロビンや抗体などが代表例。サブユニット間の相互作用によって、安定した複合体として働く。

第3回まとめ
・一次構造、アミノ酸はペプチド結合でつながってポリペプチド鎖を形成する
・二次構造、ポリペプチド鎖は規則的構造に折り畳まれる
・三次構造、水溶性タンパク質は、密な構造に折り畳まれる
・四次こうぞヴ、複数のポリペプチド鎖は会合して単一の物質となる。
・天然変性タンパク質

第4回タンパク質の一生:合成から分解まで

【アンフィンセンの実験】
アンフィンセンの実験(1950-60年代)は、尿素と還元剤で変性(構造破壊)したリボヌクレアーゼA(RNase A)から変性剤を除去すると、自発的に元の酵素活性と立体構造を取り戻すことを実証したものです。この実験は、「タンパク質の3次元構造は、そのアミノ酸配列(一次構造)によって一意に決定される」という「アンフィンセンのドグマ」を確立し、クリスチャン・アンフィンセンは1972年にノーベル化学賞を受賞
「アンフィンセンのドグマ」①アミノ酸配列が立体構造を決める②タンパク質はエネルギー最小のただひとつの構造をとるには、問題がある。→試験管内の実験結果→しかし、細胞内では、①他のタンパク質と結合したり、凝集してしまう、また、分子シャペロンが折り畳みを助けている。②他の分子と半,脳すると、複数のと異なる構造をとることがある→プリオン(正常方と異常方の異なる立体構造)

細胞内では、タンパク質が正しく折りたたまれる(フォールディング)のを助ける「分子シャペロン」というタンパク質が機能している。

分子シャペロンは「タンパク質の世話係(介添人)」という機能の総称であり、HSPはそのグループに属する具体的なメンバー。

具体的には以下のような関連があります。
1. タンパク質の「形」を整える・・・タンパク質は正しい立体構造(形)にならないと正常に機能しないため、分子シャペロン(HSP)は、新しく作られたタンパク質が正しく折りたたまれる(フォールディング)のを手助けをする。
2. 「ゴミ」になるのを防ぐ(修復)・・・ストレス(熱、酸化、紫外線など)を受けると、タンパク質は形が崩れて「変性」し、凝集して「ゴミ」になり、病気の原因となる。
HSPは、この壊れかけたタンパク質を見つけて元の形に修復したり、修復不能なものを分解へと誘導したりする「検品・修理工場」として機能。
3. 適材適所へ運ぶ
タンパク質が細胞内の正しい場所へ移動するのをエスコートする

細胞が熱などのストレスを受けると、タンパク質が壊れやすくなるため、それを守るために「分子シャペロン」である「HSP」が急増する。

HSP(ヒートショックプロテイン)の後に付く数字は、そのタンパク質の「重さ(分子量)」を表す(例:HSP70は約70kDa)。
HSP70:広範囲をカバーする「修理屋」細胞内で最も一般的で、数も多いHSPです。
主な役割: 新しく作られたタンパク質や、ストレスで形が崩れたタンパク質を広範囲に見つけ出し、正しい形に整え直します(リフォールディング)。
がん細胞では生存のためにHSP70が過剰に作られており、これを阻害することでがん治療につなげる研究がある。難病: 肺線維症などの疾患で、細胞の老化を抑え症状を改善させる可能性が注目。

HSP90:専門性の高い「安定化のエキスパート」特定の重要なタンパク質(クライアントタンパク質)だけをターゲットにする、専門性の高いHSPです。
主な役割: 細胞の成長やシグナル伝達に関わる重要なタンパク質(受容体やキナーゼなど)を捕まえ、その「活性がある状態」を安定化。
疾患との関連:
がん治療(分子標的薬): HSP90を阻害することで、がんの増殖に必要なタンパク質をまとめて機能不全にする。世界初のHSP90阻害薬として「ピミテスピブ」が承認。
神経変性疾患: アルツハイマー病などの原因となる異常タンパク質(タウなど)の沈着にも関与していると考えられ、治療の標的として研究。

タンパク質の一生

1. 誕生(翻訳)
設計図である「DNA」からコピーされた情報(mRNA)をもと(メチオニン)に、細胞内のリボソームという場所でアミノ酸がつなぎ合わされる。この時点ではまだ一本のヒモのような状態。
2. 成人(フォールディング)
タンパク質は正しい立体構造(形)になって初めて機能します。この「折りたたみ」を助けるのが、分子シャペロン(HSPなど)。ここでシャペロンの助けを借りて、一人前のタンパク質としてデビュー。
3. 活動(仕事)
筋肉を作ったり、消化酵素として働いたり、ホルモンとして情報を伝えたりと、それぞれの持ち場で一生懸命働く。
4. 老化(変性・損傷)
熱、ストレス、酸化などによって、タンパク質の形が崩れてしまいます。これを「変性」と呼び、軽度なダメージなら再びHSP(分子シャペロン)がやってきて修理してくれるが、修復不能になることもある。
5. 寿命(最期)とリサイクル(分解)
タンパク質の寿命は、タンパク質によって異なる。構造タンパク質は寿命が長く、調節タンパク質は短い傾向がある。古くなったり壊れたりしたタンパク質は、細胞にとって有害なゴミ(凝集体)になる前に処分される。ユビキチン・プロテアソーム系: 異常なタンパク質に「ゴミ出し標識(ユビキチン)」を貼り、シュレッダーのような装置(プロテアソーム)でバラバラに。
オートファジーは、細胞内にある「古くなったタンパク質や壊れた部品(ミトコンドリアなど)を、自分自身で回収して分解し、新しい材料としてリサイクルする仕組み」

  1. 隔離膜の出現: 細胞の中に「隔離膜」という平たい膜が現れます。
  2. ゴミの封じ込め: この膜がパックマンのように不要物を包み込み、「オートファゴソーム」という袋状の球体になる。
  3. 分解工場との合流: 分解酵素が詰まった「リソソーム」という器官と合体。
  4. リサイクル: 強力な酵素によってゴミがバラバラ(アミノ酸など)に分解され、新しいタンパク質を作る材料として再利用される。

バラバラになったアミノ酸は、また新しいタンパク質を作るための材料として再利用される。

タンパク質の構造と病気

タンパク質はその「形」が機能そのものなので、形が崩れると単に働かなくなるだけでなく、細胞にとって猛毒の「ゴミ(凝集体)」へと変貌し、深刻な病気を引き起こす。これらを総称してコンフォメーション病(構造病)と呼ぶ。
ミスフォールディングと疾病の主な関係性は以下の3パターンに分けられます。
1. 毒性のある「塊」が細胞を殺す(神経変性疾患)
本来なら水に溶けるはずのタンパク質が、ミスフォールディングによってベタベタした不溶性の塊(アミロイド)になります。これが細胞内に居座り、神経細胞を死滅させる。
アルツハイマー病: アミロイドβやタウのミスフォールディング。
パーキンソン病: α-シヌクレインのミスフォールディング。
筋萎縮性側索硬化症(ALS): TDP-43やSOD1のミスフォールディング。

2.本来の機能が失われる(機能喪失疾患)
正しい形になれなかったタンパク質は、細胞内の検品システム(分子シャペロンやプロテアソーム)によって「不良品」と見なされ、すぐに壊されてしまいます。その結果、体に必要なタンパク質が足りなくなって発症します。
嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう): 肺などで粘液の調整をするタンパク質(CFTR)が、わずかなミスフォールディングのために細胞から排除されてしまい、機能しなくなります。
がん(一部): 細胞の増殖を抑える「p53」というタンパク質がミスフォールディングを起こすと、ブレーキが効かなくなり、がん化が進みます。
3. 他のタンパク質にも「異常」を伝染させる(プリオン病)
最も特殊なのが、ミスフォールディングしたタンパク質が、隣にある正常なタンパク質までも同じ異常な形に変えてしまう現象。
クロイツフェルト・ヤコブ病: 異常化したプリオンタンパク質が、まるで感染症のように次々と正常なタンパク質を異常な形に作り替えてしまい、脳がスポンジ状になる。

なぜミスフォールディングが起きるのか?

通常、HSP(分子シャペロン)やオートファジーがこれらを防いでいますが、以下の理由でバランスが崩れると発症しやすくなる。
加齢: 品質管理システムの能力が低下。
遺伝: タンパク質の設計図そのものに変異があり、最初から崩れやすい。
環境ストレス: 過度な熱、酸化、化学物質など。

 

プリオン病について

プリオン病は、ミスフォールディング(タンパク質の立体構造の異常)によって生じる病気の中でも、「他のタンパク質に異常を伝染させる」という非常に特殊で恐ろしい性質を持つ疾患。

1. プリオン病におけるミスフォールディングの仕組み

脳内には、もともと「正常型プリオンタンパク質($\text{PrP}^C$)」が存在。これが何らかの原因で誤った形に折りたたまれる(ミスフォールディング)と、「異常型プリオンタンパク質($\text{PrP}^{Sc}$)」へと変化。
  • 構造の変化: 正常型は水に溶けやすく、らせん状の「αヘリックス」構造が多いのに対し、異常型は水に溶けにくく、帯状の「βシート」構造が非常に多くなっています。
  • 強固な安定性: このβシート構造は非常に頑丈で、通常の消毒や加熱、さらには体内の消化酵素やシュレッダー役(プロテアソーム)でも分解できません。

2. 「伝染」のメカニズム(自己増殖)

プリオン病が他のミスフォールディング病(アルツハイマー病など)と決定的に違うのは、異常型プリオンが「型紙(テンプレート)」として働く点。
  1. 接触: 異常型プリオンが近くにある正常型プリオンと接触。
  2. 変換: 異常型が正常型を自分と同じ「異常な形」に強制的に作り替える。
  3. 連鎖反応: 新たに異常化したプリオンが、また別の正常型を次々と異常化させるというドミノ倒しのような連鎖反応が起き、脳内に急速に蓄積。

3. 脳への影響と疾病

蓄積した異常型プリオンは「アミロイド」と呼ばれる巨大な塊(凝集体)を形成し、神経細胞を死滅。
  • 海綿状変化: 細胞が死んだ後の脳組織には、無数の小さな穴が開き、まるでスポンジ(海綿)のようになります。
  • 代表的な疾患:
    • クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD): ヒトに起こる代表的なプリオン病。
    • 狂牛病(BSE): ウシに起こるプリオン病。
プリオン病は、ウイルスや細菌のような遺伝物質(DNAやRNA)を持たず、「タンパク質という物体の形」だけで感染・増殖するという、生命科学の常識を覆す病気。

 


ハンチントン病は、遺伝性の神経変性疾患。 遺伝子の異常によって「異常に長いタンパク質(グルタミン)」が作られてしまい、それが脳内でミスフォールディングを起こしてゴミとして蓄積し、神経細胞を壊していく病気。
1. 原因:タンパク質が「異常に長く」なる
原因は、4番染色体にあるHTT遺伝子の異常。
* ポリグルタミン鎖の伸長: CAGは「グルタミン」というアミノ酸に対応しており、この繰り返しが40回以上(通常は26回以下)になると、作られる「ハンチンチン」というタンパク質が異常に長くなる。
* ミスフォールディングと凝集: 長くなりすぎたタンパク質は正しく折りたたまれず(ミスフォールディング)、細胞内でベタベタした塊(凝集体)になり、神経細胞にダメージを与える。

2. 主な症状
30代〜50代で発症することが多く、以下の3つの症状が組み合わさって進行します。
* 舞踏運動(不随意運動): 自分の意思に関わらず、手足や顔がダンスを踊っているようにピクピク、クネクネと動いてしまう。
* 精神症状: 怒りっぽくなる、抑うつ、不安、無気力などの感情の変化や、性格の変化が初期から現れることがある。
* 認知機能の低下: 記憶力よりも、計画を立てる、判断する、集中するといった「遂行機能」が徐々に損なわれていく。

3. 遺伝と「表現促進現象」
この病気は常染色体顕性(優性)遺伝であり、親が病因遺伝子を持っている場合、50%の確率で子に受け継がれる。また、世代を経るごとにCAGリピートの回数が増え、親よりも子の方が若く発症し、重症化しやすいという特徴(表現促進現象)がある。
4. 治療の現状
現時点では根治治療はありません。

ポリグルタミン病

CAGリピートが増える異常、ハンチントン舞踏病など数種類の疾病がある。リピートの数が病気によってちがう。治療法の開発、長いCAGを分解する核酸医療(アンチセンス核酸法)(腰注射)

第5回 脂質と生 体膜

【脂質とは】

有機溶媒に溶けるが、水にはほとんど溶けない化学組成や構造が異なる化合物の総称。働き→三体膜、エネルギー源、生理活性物質、シグナル伝達、脂溶性ビタミン、消化補助、断熱材

1.脂肪酸は、炭化水素鎖+カルボシキ基からなる。炭化水素鎖は水に溶けにくく、カルボシキ基は水に溶けやすく、脂肪酸は、両親媒性である。

写真・自然界にみられる動物の脂肪酸

自然界にみられる動物の脂肪酸

脂肪酸は、いろいろな脂質(エステルの形)の一部分として存在することが多い。飽和脂肪酸(炭素の2重結合がない・動物性に多い)と不飽和脂肪酸(炭素の2重結合がある・植物性が多い)に分かれる。炭素の数が少なく、不飽和度(2重結合の数)が高いほど融点が低い。→生体膜の流動性が増加する。

2.トリアシルグリセロール(triacylglycerol)

トリアシルグリセロールは、グリセロールと脂肪酸のエステル結合したもの。エネルギーの貯蔵や、断熱効果の役割を担う。

これにより作り出される、飽和脂肪は、飽和脂肪酸でできている脂肪で、動物に多く、ラードやバターなど。融点が低いので、室温で固体。一方不飽和脂肪は、植物や魚に多く、オリーブ油や肝油で室温で融点が低いので室温で液体。

【脂肪滴】・・・脂肪滴(しぼうてき、Lipid droplet)は、細胞内に中性脂肪などの脂質を蓄える細胞小器官(オルガネラ)の一種
単なる「油の塊」としての貯蔵庫ではなく、必要に応じてエネルギーを取り出したり、細胞内の脂質バランスを調整したりする動的な代謝センターとしての役割を担う

脂肪滴(しぼうてき、Lipid droplet)は、細胞内に中性脂肪などの脂質を蓄える細胞小器官(オルガネラ)の一種

脂肪滴(しぼうてき、Lipid droplet)は、細胞内に中性脂肪などの脂質を蓄える細胞小器官(オルガネラ)の一種

3.リン脂質(グリセロリン脂質とスフィンゴリン脂質がある)

細胞を包む「細胞膜」の主な材料となる脂質の一種。最大の特徴は、一つの分子の中に「水になじみやすい部分(親水性)」と「油になじみやすい部分(疎水性)」の両方を持っていること(両親媒性)。この性質により、細胞の内外を仕切る重要なバリアとして機能する。

・・・グリセロリン脂質(グリセロール(グリセリン)を骨格に持つリン脂質の総称です。生体膜(細胞膜など)を構成するリン脂質の大部分を占める、非常に重要な分子、結合するアルコールによって区別)

・・・スフィンゴリン脂質 「グリセロリン脂質」が全身の細胞膜のベースだとすれば、スフィンゴリン脂質は特に脳や神経組織に多く含まれ、高度な働きをサポートするスペシャリストのような脂質。グリセロールの代わりに、スフィンゴシンという細長い分子が土台になっている。

  • 骨格: スフィンゴシン
  • : 1本の脂肪酸(スフィンゴシン自体が長い足のような形をしているため、全体として2本の足があるように見える)
  • : リン酸 + コリン(などの親水基)

この「スフィンゴシン + 脂肪酸」が結合した部分はセラミドと呼ばれ、肌の保湿成分としても有名。

スフィンゴリン脂質の代表格はスフィンゴミエリンです。
  • 神経を保護する: 神経細胞の軸索(電気信号を通る道)を包む「髄鞘(ずいしょう)」という絶縁体の膜に大量に含まれる。これにより、神経伝達のスピードを速めている。
  • 細胞のいかだ(ラフト): 細胞膜の中で特定のタンパク質を集める「いかだ」のような領域を作り、細胞外からの情報を受け取るアンテナの役割を助けている。

4.糖脂質(glycolipid)→グリセロ糖脂質(植物・微生物)/スフィンゴ糖脂質(動物)

脂質の分子に「糖(糖鎖)」が結合した物質の総称。リン脂質が「膜の基礎」を作るのに対し、糖脂質は細胞膜の「表面のアンテナ」として、外部とのコミュニケーションや識別において非常に重要な役割を果たす。
グリセロ糖脂質(グリセロとうししつ)は、グリセロール(グリセリン)を骨格に持ち、そこに糖が結合した脂質です。植物や微生物の世界で主役を張っているのが大きな特徴。葉緑体の膜: 植物の光合成を行う場所である「葉緑体」の膜は、その半分以上(約70〜80%)がグリセロ糖脂質でできている。
スフィンゴ糖脂質(スフィンゴとうししつ)は、セラミド(スフィンゴシンと脂肪酸が結合したもの)を土台とし、そこに糖(糖鎖)が結合した物質
スフィンゴ糖脂質の代表的な種類(糖鎖の複雑さや成分によって分類)
  • セレブロシド(中性スフィンゴ糖脂質): 糖が1つだけ結合したシンプルなもの。脳の神経鞘などに多く見られる。
  • ガングリオシド(酸性スフィンゴ糖脂質): 複雑な糖鎖に「シアル酸」が結合したもの。記憶、学習、細胞の増殖、さらには免疫応答の調節など、高度な機能に関与。
  • スルファチド: 糖に硫酸基が結合したもの。神経細胞の絶縁体(髄鞘)の維持に重要。
5.ステロイド
「誘導脂質」「体の構造」や「調節」を担う専門パーツとして機能する。主に細胞膜の補強材や、生命活動をコントロールするホルモンの原料
脂質としてのステロイドの代表格がコレステロール。
  • リン脂質との関係: 「リン脂質(膜のベース)」の隙間に入り込み、細胞膜がバラバラにならないよう強度を保ちつつ、逆に冷えて固まりすぎないよう柔軟性も与える。
  • 脂質ラフト: 特定の場所に集まって、細胞の通信アンテナ(糖脂質など)を固定する「いかだ」のような土台を作る。

3. 特殊なバリアとしてのステロイド

  • 皮膚のバリア: 皮膚の表面(角質層)にはコレステロールが含まれており、リン脂質やセラミド(スフィンゴ糖脂質の土台)と協力して、体内の水分が逃げないように強力なバリアを作る。
  • 植物のステロイド: 植物も「フィトステロール」というステロイド脂質を持っており、植物の細胞膜を支えている。
生体膜の一般的な性質
薄膜状構造、脂質・タンパク質(+糖質)からなる、膜脂質は両親媒性分子、特異的なタンパク質が膜特有の機能を担う(ポンプ・チャネル・受容体・エネルギー変換体・酵素)、非共有結合による集合体、非動的構造、非対照的な構造、分極。
→リポソーム・・・「リン脂質」を使って人工的に作られた、カプセル状の微粒子。「細胞膜」とそっくりな構造をしている。

コーセー化粧品の「リポソーム」技術は、 コスメデコルテ(DECORTÉ) の代名詞とも言える画期的なテクノロジー。1992年に業界初の「リポソーム美容液」を発売。
「リン脂質」が、ここでは「美容成分を届けるカプセル」として活躍。

  • 多重層構造(たまねぎ状): リン脂質が何層にも重なった、直径わずか0.1ミクロンの超微細なカプセル。
  • 長時間持続(タイムリリース): たまねぎの皮が剥がれるように、外側の層から少しずつ美容成分を放出するため、一度塗ると長時間潤いが持続。
  • 肌への親和性: カプセル自体が肌の構成成分(リン脂質)でできているため、角層深くへスムーズに浸透し、壊れたバリア構造を補修する効果も。
糖質
糖質とは、ヒドロキシ基に富む炭素化合物。脂質の分子に「糖(糖鎖)」が結合した物質の総称。

糖の種類は、分子がいくつ結合しているかという「大きさ(構造)」によって大きく4つのグループに分類される。
1. 単糖類(たんとうるい)
これ以上分解できない「糖の最小単位」。分子が小さいため、摂取すると非常に素早く吸収され、すぐにエネルギーに変わる。
* ブドウ糖(グルコース): 血液中に「血糖」として存在し、脳や体のメイン燃料になる。
* 果糖(フルクトース): 果物やはちみつに多く含まれる、非常に甘みの強い糖。
* ガラクトース: 乳類に含まれる成分。

2. 二糖類(にとうるい)
単糖が2個くっついたもの。単糖類と二糖類を合わせて「糖類=砂糖」と呼ぶこともある。
* ショ糖(スクロース): いわゆる「砂糖」の主成分。ブドウ糖と果糖が結合したもの。
* 乳糖(ラクトース): 牛乳や母乳に含まれる、ブドウ糖とガラクトースが結合したもの。
* 麦芽糖(マルトース): 穀類が発芽する際などに作られる、ブドウ糖が2個結合したもの。

グリコシド結合とは、「糖」と「他の分子」がつながる時の特殊な結合
「糖脂質(糖+脂質)」や「二糖類(糖+糖)」などは、すべてこの結合によって結ばれている。

(1). 結合の仕組み

糖分子が持つ「OH基(水酸基)」と、相手の分子が持つ「OH基」などが反応して、水分子(H₂O)が1つ取れてつながる(脱水縮合)ことで形成。
  • 糖 + 糖: 麦芽糖やでんぷんなどの「多糖」。
  • 糖 + 脂質: これまでに解説した「糖脂質」。
  • 糖 + たんぱく質: 「糖タンパク質」。

(2). α(アルファ)とβ(ベータ)の違い

グリコシド結合には、つながる「向き」によって性質が大きく変わると特徴がある。
  • α(アルファ)結合:人間が持つ酵素で分解できる結合です。(例:でんぷん、砂糖。私たちはこれらを分解してエネルギーにできる。)
  • β(ベータ)結合:人間には分解しにくい、あるいは分解できない結合が多い。(例:セルロース(食物繊維)。形はでんぷんと似ていますが、結合の向きが違うだけで、人間は消化できない。)

3. 少糖類(オリゴ糖)
単糖が3〜10個程度結合したもの。
* 特徴: 消化されにくい性質を持つものが多く、大腸まで届いて善玉菌のエサになるなど、整腸作用が注目されている。* 例: フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など。

4. 多糖類(たとうるい)
単糖が10個以上(時には数千個)結合した巨大な分子。分子が大きいため、分解・吸収に時間がかかり、血糖値の上昇が緩やかになる傾向がある。

ABO式血液型
血液型の違いは、赤血球の表面にある「糖鎖(糖が鎖状につながったもの)」のわずかな種類の違いによってまる。この糖鎖の根元は脂質やタンパク質に結合しており、「糖脂質」や「糖タンパク質」として存在する。すべての血液型のベースには、H物質(H抗原)と呼ばれる共通の糖鎖があり、これに「どの糖が最後に追加されるか」で型が変わる。

型ごとの「最後の1個」の違い

  • A型: H物質の先に、N-アセチルガラクトサミンという糖が1つ結合。
  • B型: H物質の先に、ガラクトースという糖が1つ結合。
  • AB型: A型の糖鎖とB型の糖鎖の両方を、赤血球の表面に持っています。
  • O型: 土台であるH物質のままで、追加の糖がついていない。

3. なぜ輸血で問題になるのか?

私たちの体は、自分の持っていない糖鎖を「異物(敵)」とみなし、攻撃する「抗体」を持つ。
  • A型の人: B型の糖(ガラクトース)を敵とみなす「抗B抗体」を持つ。
  • B型の人: A型の糖(N-アセチルガラクトサミン)を敵とみなす「抗A抗体」を持つ。
  • O型の人: A型・B型どちらの糖も持っていないため、両方を敵とみなす。逆に、O型の血液は「余計な糖」がついていないため、他の型の人に輸血しても拒絶反応が起きにくい。

脂肪酸とオヤジ臭のヒミツ

. ニオイが発生するメカニズム

年齢を重ねると、体質や脂質代謝の変化に伴い、体臭の発生プロセスが以下のように変化。
  • パルミトレイン酸の増加: 40代以降、皮脂腺から分泌される皮脂の中に、若い頃にはほとんどなかった「パルミトレイン酸(不飽和脂肪酸)」が急増。
  • 酸化反応: 同時に、加齢に伴い体内の抗酸化力が低下し、「過酸化脂質」が増え。この過酸化脂質や空気中の酸素、さらに皮膚の常在菌の働きによって、パルミトレイン酸が酸化・分解。この分解過程でノネナールが生成。これが、加齢臭の正体。
パルミトレイン酸の酸化を防ぐことが、加齢臭対策の近道。
トランス脂肪酸
飽和脂肪酸は液体で扱いにくいので、2重結合を介助すればいい、という考え方で、例えばオレイン酸に水素を孵化して、ステアリン酸する。と、副産物として「トランス脂肪酸」が生成されてしまう。

1. トランス脂肪酸による健康への弊害
トランス脂肪酸を摂取し続けると、体内で以下のような悪影響が起こる。
* 心血管疾患のリスク増大: 悪玉コレステロール(LDL)を増やし、善玉コレステロール(HDL)を減らすため、動脈硬化や心筋梗塞のリスクが非常に高くなる。
* 炎症反応の促進: 血管の内壁にダメージを与え、体内の慢性的な炎症を引き起こしやすくなる。
* 代謝への悪影響: インスリン抵抗性を高め、糖尿病のリスクを上げるとの指摘もある。

2. 細胞レベルでの弊害「細胞膜」の視点で見ると、さらに深刻。
* 膜の柔軟性の喪失: 細胞膜の材料(リン脂質)としてトランス脂肪酸が取り込まれると、膜が異常に硬くなり、栄養の取り込みや老廃物の排出といった細胞の通信機能がスムーズにいかなくなる。

セルロースナノファイバー

セルロースナノファイバー(CNF)は、木材などの植物繊維をナノメートル(1mmの100万分の1)単位まで細かくほぐした、植物由来の次世代素材。私たちがCNFとして利用しているものは、植物が何億年もかけて進化させてきた細胞壁の骨格そのもの。

1. 細胞壁におけるセルロースの構造

植物細胞の周りにある細胞壁は、鉄筋コンクリートのような多層構造をしています。
  • 鉄筋(セルロース): 糖(ブドウ糖)がグリコシド結合で真っ直ぐつながり、さらにそれが束になった「ミクロフィブリル」が、細胞壁の強靭な骨格(鉄筋)。
  • コンクリート(ヘミセルロース・ペクチン): セルロースの隙間を埋めて固定する接着剤のような役割。
  • 防水・補強(リグニン): 木のように硬くなる際、さらにこれらが固められる。

2. 「細胞壁をほぐす」ことで生まれるCNF

セルロースナノファイバーは、この細胞壁から接着剤(リグニンやヘミセルロース)を取り除き、「鉄筋」であるミクロフィブリルだけを1本ずつバラバラに解きほぐしたもの。
  • 植物の状態: セルロースの束が太く、目に見える「繊維」の状態。
  • CNFの状態: 繊維をナノサイズ(髪の毛の1万分の1以下)まで細かくした状態。これにより、元の植物にはなかった「透明性」や「超軽量・高強度」という特性が引き出される。

3. なぜ細胞壁の構造が「夢の素材」になるのか

植物は、自らの重さや風雨に耐えるために、細胞壁の中に「細くて強い」セルロースの鎖を、規則正しく、かつ緻密にパッキングしている。CNFはこの「自然界のデザイン」をそのまま取り出したものであるため、人工物では難しい「軽さと強度の両立」が可能になる。

第7回 エネルギーを得るしくみ・発酵と微生物の利用

人間に有効な変化を発酵、有害な変化は腐敗と呼ぶ。さまざまな発酵食品がある。
カビ(多細胞の真核生物)
酵母(単細胞の真核生物)
細菌(原核生物・乳酸菌、納豆菌、酢酸菌)
発酵食品と微生物
発酵は、反応の最終産物によっていくつかの種類に分けられる。発酵の種類は、アルコール発酵(酒・パン)、乳酸発酵(チーズ、ヨーグルト、つけもの)、酪酸発酵(ぬかみそ)、酢酸発酵(食酢)、腐敗(ボツリヌス菌、黄色ブドウ球菌、シュードモナス、大腸菌)

イースト、Yeast、酵母

イーストとは?単細胞の真核微生物で、出芽(親細胞の体の一部がぷくっと膨らんで新しい細胞ができる)または分裂によって増殖するフェーズが生活史の大半(または一部)を占める子嚢菌類ならびに担子菌類の総称。なかでも、出芽酵母(しゅつがこうぼ、学名:Saccharomyces cerevisiae)は、数ある酵母の中でも、私たち人間にとって最も身近で、かつ科学の世界で最も重要な種類。

1. 「パン」と「お酒」の立役者として古くから人類に利用されており、別名「パン酵母」や「醸造酵母(ビール酵母)」とも呼ばれる。

* 糖を食べて、アルコールと二酸化炭素を効率よく作り出す能力に長けている。

2. 生物学の「スーパースター」
実は、出芽酵母は科学の研究において「モデル生物」として世界中で使われている。その理由は、私たち人間と同じ真核生物でありながら、非常に扱いやすい特徴を持っているから。

* 増えるのが速い: 約2時間で1回分裂(出芽)するため、実験の結果がすぐに出る。
* 遺伝子が解明されている: 1996年に、真核生物として初めて全ゲノム(遺伝情報のすべて)が解読された。
* 人間との共通点: 基本的な細胞の仕組み(エネルギー代謝や細胞分裂のルールなど)が人間と驚くほど似ている。そのため、がんの研究や老化のメカニズムを調べる際にも使われる。

3. 出芽の仕組み
出芽酵母が増えるとき、親細胞の表面に小さな突起ができ、そこへ親の核やミトコンドリアなどの「コピー」や「分け前」が送り込まれる。

* 十分に大きくなると切り離され、独立した娘細胞になる。
* 親細胞には、芽が出た跡である「出芽痕(しゅつがこん)」が残り、これによってその酵母が何回子供を産んだ(分裂した)かがわかる。

【酵母の強み】
・酸素がなくても増殖できる
・酸性条件下でも増殖できる
・濃い糖分の中でも増殖できる
・アルコールを生産し、かつアルコールに耐えられる

多くの微生物がいる中で、酵母だけが生き延びられる。

ワイン、ビール、日本酒、パン。それぞれ適した酵母が歴史の中で選択されてきている。組み合わせる糖の工夫も。

酵母の弱み。
低分子の糖は利用できるが、高分子の糖は利用できない。
まずは、糖化がおき、単糖・二糖になってから、発酵する。

まずは、糖化がおき、単糖・二糖になってから、発酵する。

エールビールとラガービールは酵母がちがう。エール(上面発酵酵母)ラガー(下面発酵酵母・近縁種のハイブリッド)・・・

 

Saccharomyces eubayanus(サッカロミセス・ユーバヤヌス)を巡る「謎」
世界中で愛されているラガービールの「失われた親」を探し出すミステリーラガー酵母は「エール酵母」と「正体不明の耐寒性酵母」が合体したハイブリッドと判明していたが、そのもう片方の親がどこにいるのかが最大の謎であった。

1. 「パタゴニア」で見つかった衝撃

2011年、アルゼンチンのパタゴニア地方にあるブナの木から、新種の野生酵母 S. eubayanus が発見された。
  • DNAの一致: この野生酵母の遺伝子が、ラガー酵母の「正体不明だった部分」と99.5%以上一致することが判明。
  • 耐寒性の秘密: ラガービール特有の「低温での発酵」を可能にしていたのは、この S. eubayanus 由来の性質だった。

2. 生じている新たな謎

発見によって一気に解決したかと思われたが、今度は「地理的な謎」が浮上。
  • どうやってヨーロッパへ?: ラガービールは15世紀のドイツ(バイエルン)で誕生したが、当時はまだコロンブスがアメリカ大陸に到達したばかりの時代。南米の野生酵母が、どうやって当時のドイツの醸造所まで「移動」したのか、そのルートは今も議論の的。
  • 実はチベット起源?: その後の研究で、中国のチベット高原などからも S. eubayanus が見つかる。遺伝子解析の結果、パタゴニア株よりもチベット株の方が、現在のラガー酵母の親に近いという説も出ており、起源を巡る論争が続く。

3. ビールの未来を変える可能性

この「親」が見つかったことで、これまでは不可能だった「新しいラガー酵母」の自作が可能に。
  • ハイブリッドの再構築: 野生の S. eubayanus と他のエール酵母を人工的に掛け合わせ、これまでにない香りや味を持つ次世代のラガービールを開発する研究が進む。

発酵と呼吸(生命活動に必要なATPをつくる)

ATP=エネルギーの作り方

酸素があれば、酸素でつくる→ミトコンドリアを使って、1グルコースから38APTを作る。
酸素がなければ、発酵でつくる→グルコース1分子から2ATPを作る。

酵母は、生きるために発酵している。

 

まとめ。

発酵製品は微生物によって作られる
発酵によって、食品の旨味や香りが増す。
アルコール飲料を作る微生物は酵母である。
アルコール発酵は、酵母が嫌気下でATPを作るために行っている。
地球上にはさまざまな酵母があり、それらの活用は期待される。
微生物を深く知ると、優れた発酵食品が作れる。